「江戸城天守を再建する会」発足記念集会。
昨日3月2日は、振袖火事(明暦大火)の日だったそうで…
江戸城天守の記事にはふさわしい?かと思いますので、
昨年11月の発足記念集会の話をば。(超今更)
ていうか、3月2日に間に合わないというね・・・汗
更に11月末の記事で年末に書こうと思って年が明けてしまい、
2月までにはと思っていたら、それもかなわず・・・
というイイワケをしたうえで・・(苦笑)
「江戸城天守を再建する会」とは?前からやってたでしょ?
という感じがしますが、実は会の名称変更をしたんですね。
「江戸城再建を目指す会」だったんですが、明確に
「天守」を(目指すではなく)「再建する」という
意思表示をしたということだそうです。
■開会の挨拶
毎度おなじみ、会長さんは太田さん。
太田道灌の血筋につながる方だそうで・・・・
以前から気になるのですが、徳川宗家である
德川恆孝氏はどうお考えなのか、ご意見賜りたいところ…
■観光庁
そして続いては、観光立国の推進について、と題し、
国土交通省観光庁から新垣観光資源課長のご挨拶。
うーん・・・海外からのお客様をお迎えするという話。
年間1,000万人を目標にしているそうで、昨年は
10月で860万人を超す勢いだとか。
アジアからのお客様が3/4を占めているみたい。
それでも、フランスの8,000万人、
イギリスの2,800万人には程遠い状況。
うーん・・・江戸城天守再建の話なハズですが、
観光の話が最初に来るとはね・・・
いや、必要な観点ではあると思うのだけどね・・・
ただ、天守再建の暁に諸外国のトップを招いた
会議を天守内で行うのはおもしろいかもね。
■林野庁
林野庁の方のご挨拶。大方沼田次長(当時)の話と
重複しますので、割愛します・・・
そして、いよいよ本題。
■シンポジウム「江戸城天守再建の今日的意義と課題」
シンポジウムは、小竹理事長のコーディネートの下、
日本都市計画学会・江戸城寛永度天守再建調査検討委員会を
構成する皆様方のご報告を中心に進められました。
委員長・伊藤滋氏(早稲田大学特命教授)
副委員長・中井検裕氏(東京工業大学教授)
委員・三浦正幸氏(広島大学大学院教授)
委員・山田幸夫氏(委員会アドバイザー)
日本経済研究所・小林寛行氏
の5名の方からのご発表。
■伊藤滋氏
最初に伊藤氏から・・・東京の世界の中での位置づけ
に関する危機感のお話。
なんでもソウルに東京が観光客の数字で抜かれたそうで。
上海や北京はすでに抜いていて、日本の、東京の
位置が相対的に下がってきているという指摘。
うーん・・・わからんでもないがね・・・
この観点が第一っていうのはね・・・そうなのか?
そして、よくある話。ビッグベンを見るとロンドンだな
凱旋門を見るとパリだな、紫禁城を見ると北京。
国の威厳を示すモニュメントですか・・・
それにひきかえ、東京は・・・宮殿も見えなくて、
周囲の景観に埋没している、と。
まぁ・・百歩譲って確かに天守は現れた
歴史的経緯を考えると、権威を代表すべき建造物に
なりうるとは思うけど、それから話を始められると
正直、うーんと唸っちゃうんですよね。
日本の城の価値、天守の価値、なぜ江戸城なのか?
という必然性に説得力が欠けるといわざるを得ず。
アピールすべきはそこなのか・・・
品があるとかないとかって、どうも響かぬ・・
ドイツのベルリン王宮再建の話も出ましたが、
余所がどうだから、日本も・・式の考え方はどーしても
なじめないんですよね・・・そうじゃない、と。
■中井検裕氏
中井氏からは大きく二つの観点で検討したという話。
ひとつは、「現代の」都市計画という観点。
もうひとつは、建築学的・構造学的に再建可能なのか?
という観点だということです。
・・・大事な何かが抜けているような気がするのですが(汗)
ま、いいや。中井氏からは前者に関してのお話。
グローバル化が進展する今日、都市の競争力を高めるには
都市が持つ固有の魅力を研ぎ澄まされなくてはならない、と。
そして、都市固有の魅力を引き出すには、
都市の持つ歴史に根ざしたものである必要がある・・・ふむ。
歴史性を意識した都市計画。そうすると、
東京の原点である江戸、江戸城に注目せざるを得ず、
東京になった後も、江戸城の構造的・空間的遺産を
大いに引き継いでいるわけですね。
一方で歴史性に配慮がない整備がされてきたのは、
その通りで、これをどう歴史的な配慮をして
魅力ある「都市計画」を進めていくかが課題と指摘されます。
一方で江戸城の外郭では、江戸城石垣の整備、
(文部科学省の構内など)や東京駅の整備など、
歴史をキーワードにした整備がされています。
外濠なんかも注目されていますよね?
その一環で歴史空間の再認識と周辺地域の歴史を意識した
環境整備と連携する東京の中心の整備が必要、と
おっしゃっていました。
東京駅を起点とし、桔梗門から本丸に入り、
天守や(将来は御殿や櫓の再建や日本橋川の首都高を
地下に沈めて)日本橋川の濠を楽しめる回遊ルートを
つくりたい・・・とのことです。
日本橋川が開けるのは、天守再建とは別に
非常に素敵なことですよね・・・・
そして、天守が求心力として働かせるということ。
うん、わかるんですが、なぜ天守なのか?
天守でなくてはならないのか?という点に関しては、
やはり、説得性が今一歩といわざるを得ないかな、
というのが、個人的な感想ですね・・・
■三浦正幸氏
今や、おなじみの三浦先生登場です。
建築学的側面からお話いただきましたよ♪
資料にあった雛型・・・わくわくしますねー!
甲良家資料に関する説明。何度も三浦先生から、
よくお伺いした内容です(笑)
そして、正徳度の資料も解説がありまして、
こちらは大工棟梁の甲良家ではなく、建築の知識に疎い
絵師の描いたもの、ということでした。
技術的に見て、ちょっと正確ではないとのこと。
あの瓦が銅色で描かれているのも
本来の姿を写しているものではないんですね。
だったら、NPO法人が出している復原図の
真っ黒黒の姿もほしいものですね(個人的趣味)
城好きさんには有名な・・今の天守台が
明暦大火後につくられた天守台であることも紹介。
穴蔵の面積は同じで高さだけが、一間低く造られていると。
寛永度の天守台が七間、現天守台が(一部埋もれてますが)
六間となっていて、約2m(1.81818m)低いんです。
この理由、初めて知ったのですが・・・
何でも家光が完成した寛永度天守を見て廻った際、
本丸を巡らせた多聞櫓の屋根の上に少し石垣が見えていて、
下品だ・・という感想を漏らしたとのこと。
あと一間低くしておけばよかったと嘆いたのだそう。
後に再建するつもりで天守台を築きなおした際、
家光の言葉を守って、低くして築いたのですね・・・
屋根の銅瓦葺と側面の銅板張は、既報の通りですね。
せっかく耐火性もバッチリだったのに・・・惜しい。
そしてその大きさの話にも言及。普通の畳を敷くと
総床面積を覆うには、2,330畳にも及ぶそうで・・・・
21世紀に建てられる純木造建築としては、
東大寺大仏殿に次いで、世界第二位の建築になるそう。
んで、再建の暁の話ですが、通し柱が往時の天守には
あったそうなのですが(2-3階、3-4階、4-5階)
委員会で検討した結果、2-3階の通し柱は通し柱に
しないほうが強度が高いということがわかったそうです。
柱に関しては、60cm角が26本、36cm角が503本、
30cm角が129本、24cm角が16本。36cm角の長さが
半分のものが52本。城門部分に4本の計730本。
梁がおよそ250本くらいだそうですから、1,000本ですね。
これらの柱、明治から大正にかけて人工植林で植えられた
国産檜を用いて木材の調達ができそうなんですってよ?
100年を超えた樹木は生長がほぼストップし、
炭素固定もほぼ行わないことから、新たに植林することで
CO2の吸収にもなるのだそうで。ほぅぅ。
そして、日伝建の腕のよい職人の皆さまの腕を振るう
場ができ、技術の伝承にも一役買えますしね・・・
建築的にはまったく天守再建は喜ばしいことですよね!!
■小林寛行氏
続いて、日本経済研究所の方から経済波及効果の試算。
前提としては、開業1年目までとし、建設費と
来場者の消費支出を基にした産業連関分析。
# あー・・・経済学部でそんなのやった気がする・・(笑)
ということで、1年間の波及効果が約1,000億円だとか・・・
建設費350億円が1年で回収できるってことですかい?
その前提をつぶさに見ると・・・年間来場者が
なんと500万人ですって?スカイツリーが638万人、
東京タワーが520万人、江戸東京博物館が265万人・・・
というのを参考にしているそうですけど。
マジで?低い数字じゃないっておっしゃってましたけど、
スカイツリーとかと同列に扱っていいの?
天守にそんな人が入るんだっけか・・・なんだか不安な試算。
一応、城郭同士の比較で熊本城本丸御殿が
初年度220万人だったそうですけど・・・天守と御殿の差を
考えてっておっしゃってますけど、無理ないですか??
入場単価は1,200円はまー・・・・許容範囲かな?
スカイツリーの激高を考えるとね?
あ、わたしにとってはぜんぜん安いですけどね(爆)
350億の投資で初年度70億の売り上げがあれば、
ビジネスとして成り立つかもしれないけどね・・・
うーむ。
■山田幸夫氏
最後は、(株)久米設計代表取締役でもいらっしゃいます
山田氏からコメントがありました。
進める上で大事な点を7つ上げられていました。
ひとつ、誰もがやるべきだろうな思わせる合意形成は?
ひとつ、構造的に問題がないのか?
ひとつ、材料が調達可能なのか?
ひとつ、法的に問題がないのか?
ひとつ、工程的に問題がないのか?間に合うのか?
ひとつ、コストは見合うのか?
ひとつ、事業性があるのか?持続可能なのか?
いずれも検討委員会で問題ないという判断だそうですけどね?
しつこいですが、最初のひとつめが大きな問題ですよ。
誰もがやるべきという合意形成に、都市計画だけでいいの?
ということですよね。歴史的な観点が決定的にない。
宮内庁との問題はある意味、この会の中でも既知の問題として
認識されている一方で、歴史的な観点の欠落が
致命的だと思わざるを得ないのです・・・
そしてブレイクタイムには、なぜかくまモン・・・
江戸まで天守再建の応援に参勤交代ですか(違)
後半には、有志会員の皆さまによる意見発表。
どれも有意義な視点だし、特に未来志向であるべき!
であるのは同意だけど、誰も城としての魅力や
文化財としての価値への指摘がないんだよなぁ…
もやもやもや。うーん。
そして、懇親会。ここぞとばかりに三浦先生を独占(笑)
一気にお聴きしたいことをたくさんお聴きしました。
■天守台と天守指図との整合性
天守台はもちろん埋められているのを
撤去しないといけないわけですが・・・
一度も天守が建っていないがゆえに、礎石もあるわけがなく、
あったものの痕跡を探すための発掘調査・・・
という意味ではそう時間がかからないと見込んでいるとか。
なるほどね・・・床面積が想定通りな時点で
大丈夫なのかな・・とちょっと安心はしました。うん。
ただ短い…とはいえ、発掘調査は約1年で進める予定だそう。
組み上げ期間も当時とくらべたら格段に短くなるが、
木材の準備のほうに時間がかかりそうね。
乾燥とかじっくり時間が要るからね・・・・
■銅瓦の謎。
謎だった銅瓦。正徳度の絵図を見る限り、
赤い銅色をしてたの・・・・?
と思っていたのですが、実は天守側面の銅板と同じく
松脂と炭を主体にした黒い防腐剤黒チャンが
銅瓦にも塗られていたそうなんです!!
ということは、創建直後は緑色ではなく
真っ黒だったそうなんですよね。
ただ側面と違い激しく風雨に晒されるので、
5年もすれば剥がれてくるのだそうです。
そして、少しずつ酸化銅の緑が現れるそう。
こうして出すほうが美しい緑色になるですってよ・・・!!
一方で名古屋城大天守の創建直後は赤い銅色ままだったとか。
今でもその当時のカラー写真が残っているそうで・・・
三浦先生としてはあんなのはナイ!と仰っていましたが、
ちょっとその様子を見てみたいわたしなのでした(笑)
■天守台と天守指図との整合性
三浦先生を(ほぼ)独占してしまいましたが、
いろいろお話を聴けてホクホク。翌日には広島に
戻られるとのことで・・・お忙しい。
さて、会場を後にして、少し歩いて江戸城大手門を
横目に見ながら、帰宅。
んでですね、個人的な所感について。
(1)「視点」の問題
今回の提言は、都市計画の観点と建築学的な観点の
2点からの再建可能性を議論されていたわけですけども、
歴史的な観点、また文化財としての観点で
江戸城天守の価値の整理と再認識がされていないなぁ…
というのが、率直なわたしの意見でして。
つまり、なぜ江戸城天守は再建に値するのかという命題を
江戸城の歴史の流れの中でどう位置づけるのか?
ということについて明確な議論がされていないのです。
東京の原点として、江戸城を位置づけながらも、
単純に江戸城を辿ればいいというようにしか感じられない。
江戸城の歴史を審らかにして、現代に生かす
という「丁寧さ」が感じられない点に危機感を憶えます。
別記事でまとめていますが、天守再建に疑問ないし
批判的な意見がある多くの理由のうち、
天皇陛下や宮内庁との問題を除けば、
江戸城天守に対する「歴史認識」の違いに端を発する問題が
かなり多くあるように思っているからです。
一方で、この会の中の動きとしては、歴史的あるいは
文化的な価値は自明のものとして進められている印象で、
歴史を知る人々や城を愛する方々とのギャップが起きている
ということに気づかれているのだろうか?と心配でした。
城や歴史に関心のある方々を如何に味方につけるか?
歴史的な位置づけについて、オープンに議論できるような
場の設定が必要かもしれませんね。
つい先日も、城フェスであれだけの人が集まるくらい、
城に関する関心度は高くなってきているわけで、
これらの方々との連携は、必要不可欠だと考えます。
(2)500万人の来場者想定
ちょっとレベルの違う話になりますが、
日本経済研究所から経済波及効果についての分析結果が
あったんですけど、ちょっとその前提に疑問。
江戸城天守入城料1,200円はまーいいとして、
初年度500万人来訪者想定。
てことは、1日あたり14,000人程度の来城です。
仮に8時から20時まで開いていたとして、
開館時間12時間とするならば、1時間あたり1,000人以上も
天守の中に常にいることになります。
で。
皇居東御苑にそんなキャパシティがあるのか?
天守に常時1,000人がいて、強度上問題ないのか?
そもそも1,000人も天守に入れるのか?
どこまでを有料スペースにするかもありますが、
天守内だけを有料にするのであれば、
ちょっと現実的ではないような気がしていて、
これで公共投資が要らずに運営していけます!
と宣言するには、少々心もとない気がしています。
ま、思いの強さとしては(1)ですよね。
城である以上、歴史に関心のある人々を無視は出来ないはず。
もちろん、わたしもそのひとりです。
その点の言及と関心の少なさが非常に気がかりですね。
そもそも江戸城に関心のある方々は、そういう議論を
待っているはずです。都市計画だけを提示すれば
合意を得られる・・・わけはないですよ?
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