ウイスキーフェスティバル その3。
さて、続き。ここからは樽のこだわりのお話です。
宮本さんがお若いときに、サントリーの樽材子会社、
メープルグローブ社に出向されていて、
そのときのご経験も交えながら。
樽工場は、2箇所。
近江樽工場は新材から曲げ加工などの工程を経て
一から製造する工場。
白州樽工場は、バーボンの空き樽を
組みなおし、ホックスヘッドに作り変える工場。
樽の名称。教科書的にここはこう・・・
みたいなのって確かにはっきり知らないかも。
鏡板くらいは知ってるけどね・・・
山崎の原酒が主に貯蔵されている
近江エージングセラーの年間気温推移。
やはり、年間通じて最低2~3℃は、
白州と比べて気温が高く、
ゆっくり熟成することで得られる美味しさを
求めるために、気温の高い近江では、
熟成が緩やかに進むパンチョン樽が
よく使われるんですね。
スコットランドや日本でもニッカのように
北の国で熟成させる場合には、
これだけ大きなパンチョン樽はいらないのでしょう。
比較的温暖なところでも、
ゆっくり熟成させる技、その秘密がパンチョン。
製樽の工程。海外の樽造りでは、
曲げ加工するためにチャーをしたりするけど、
日本では湿らせて曲げ加工を行った後で、
チャーをするんですね。
で、そのチャーですが、
バーボンと比較して、こげっこげにはせず、
抑え目にするのがポイントとか。
この焦げは、バニラ的な香りの元になる
バニリンが溶出するもとにはなるのだけど、
あまり焦がしすぎる、強すぎてしまうんだそうです。
オークを求めて世界へ。
ホワイトオークの生育しているのは、主に北米。
サントリーの高いスペックに合う
ホワイトオークを求めて、製材業者と交渉。
・・・これが、なかなか苦労するところだそう。
というのも、一からウイスキー用に、
しかも、パンチョン樽のような大きな樽を
組み立てるところが少ないために、
アメリカの製材業者は、バーボン用の樽材の長さで
切ってくるんだそうです。
そうすると、パンチョン樽は側板が、
バーボンのものよりも約30cmも長く、
そのままでは、耐久性が悪くてボキボキに折れて。
パンチョンという世界でも珍しい
樽をつくるためのスペックを指定するのだけど、
何でそんなのがいるのか?となかなか、
理解してもらえなかった・・という苦難の歴史。
サントリーがメープルグローブ社を設立したのも
サントリーのスペックの材木を集めるため・・とか。
そこでスタンダードをつくり、他の業者にも
そのスペックで材木を出してもらえるように
誘導できるようになったんですねぇ・・・
いい材を手に入れる、そのエピソードだけでも
サントリーというか、日本人のコダワリ気質が
見て取れるように感じますね。
で、その樽材となるホワイトオークの話。
北米大陸でもミシシッピ川以東の地域に
一般的に生育している樹木。
とはいえ、カナダのように寒すぎると
育たないし、フロリダほど暑いとダメ。
ちゃんと温帯で四季があるところがいいそうで。
でも、ホワイトオークとひとつとっても
細かく分けるといろんな種類があるんです。
いわゆる純粋なWhite Oakだけではなく、
White Oakの大枠で分類される仲間がいっぱい。
全部で7種類もあるんだって!
そのなかでも、Post Oak、Bur Oak、Chinkapin Oakは
製樽用のWhite Oakとして、利用されてます。
実や樹皮、葉のかたちなどで見分けをつけるみたい。
写真ではちょっと見にくい・・・かもだけど、
葉の切れ込みがあり、かつ先が丸いのが、
White Oakの証拠。Red Oakなどは
先端が尖ってるのだそうです。
がっ。製材されて入ってくることが
多いのでなかなか見分けづらいことが多く、
Chestnut OakやChinkapin Oakは
樹皮はすごく似ていて間違えやすいみたい。
・・・・で、製材の話へ。
ホワイトオークが主に使われる理由としては、
ウイスキーマニアならご承知の通り、
香味物質が豊富というだけではなく、
チローズという導管内の物質が駅漏れを
防止してくれる・・からだったりするわけです。
それでも、木材の切る方向によっては
漏れやすくも、漏れにくくもなる・・・それが、
柾目板へのこだわり。
年輪に対してどういう方向か?というよりも、
ウイスキー樽としては、養分を運ぶ管だった
放射組織が平行に入っているかどうか?が重要。
やはり、これが平行に走ってることで、
漏れにくくなるんですね。
とはいえ、わかりにくいので年輪と放射組織が
直交していることを利用し、年輪で見分けてると。
こんな感じで切り出していきます。
切り出す方法は2種類。
これを気にせず、ざっくざくと切り出すと・・・
放射組織が平行ではなく、かなり角度が
付いちゃうこともあり、こうすると
樽の内と外が、かつて養分の通り道だった
放射組織を介して、つながってしまい、
漏れてしまうんですね・・・
45度よりも角度がきつくなると、
もう・・ダメだとかで、こういうところも
アメリカに出向されているときに、
製材会社に熱心に説明されたそうですが・・・
バーボンって、2~3年程度の熟成がほとんどで
熟成期間が長くないために、年輪がどうとか・・
あまり気にされないことが多く、これもまた
なかなか理解されずに、ご苦労だったとか。
ウイスキーは10年、20年、長いものだと
それ以上に熟成させるわけですから・・・
もう1点、樹木の生長。大体樹木って、
まっすぐにはならずに、螺旋階段のように、
うねりながら成長するんですね。
これを機械で、よいしょっと反転させて
その状態で切るというよりは、木目に沿って割る!
これを守らないと、目切れといって、
ねじれたままで漏れやすい、折れやすい・・材に
なってしまうんです。
その他も、辺材という実際の成長している部分は
液漏れを防ぐチローズがまったくないので、
これも入ってるとダメ。
材のところどころに、チローズの
抜けている部分があることがあり、
切った後にそのままにしておくと、
ゴミが入ったりして黒く見える・・これが鉱条。
これもチローズが抜けてる・・わけですから
やっぱり、ダメな例なわけですね。
こういう材を徹底的に排除する・・のも
大切なことなんですね。
あと、スペックがダメということではないけど、
樹木の個性として、成長の早いもの、遅いものを
組み合わせて製樽すると、折れやすさや硬さが
違っているせいで成長の遅いものが負けちゃうそう。
こういったことに気をつけながら、
樽を作っていくんですね・・・
お話の後は、パンチョン12年原酒と
パンチョン17年原酒のティスティング。
12年のほうは、「山崎パンチョン」でも
あったような感じなんだけど、
17年のほうのパンチョンにびっくり。
おとなしい感じのイメージだった、
パンチョンがかなり熟成感がしっかりしていて、
パンチョン、やるじゃん!
と声をかけたくなる感じですね。
わたし、ウイスキーをかなり香りで
味わうほうなので、香りとしては違いが少ない
と感じられましたが、味わいが違うんです、
とのひとこと。
こうしたパンチョン樽の原酒が
一般製品の多くを占めているわけで、
ここが美味しくないと、ダメなわけです。
どうしてもシェリーとか、ミズナラとか
そっち方面にマニアはいっちゃうけど、
パンチョンの原酒をいろいろの見比べるのも
いいかもしれないな・・・
山崎か白州に次回行った際には、
ミズナラばっか飲んでないで、
パンチョンも率先して、飲んでみようと思います。
最後に、山崎12年でおさらい。
パンチョンがしっかり根付いてるなー・・と
再認識して、お開きでございます。
・・・ちょっとレポが長くなっちゃったけど、
すごく興味深いお話でした。
またひとつ、ウイスキーに詳しくなった気がします。
宮本さん、ありがとうございました。
blogramに参加してます。
ボタンを押してもらえるとうれしいですぅ。
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